音楽が復活した日

やっと会えた!

2020年7月21日。

実に5ヶ月ぶりのコンサートのタイトルは「静かに熱狂を待つ」。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲とベートーヴェンの7番。


聴かせたくてもその場がないもどかしさ、聴きたくてたまらなかった想い、

そして、これからの不安。

その場にいるすべての人のいろいろな想いが渦巻く不思議な空間だった。

でも、人の気配、心のふるえ、これがライブだ。

ベートーヴェンのフィナーレの後は思わず立ち上がって

心からの拍手を贈った。涙で、前がよく見えない。

客席は半分だけれど、拍手は負けないように届けたい。

きっとみんながそう思ったに違いない。

世界的な指揮者の小林研一郎先生。

37年前、大学生の時に出逢って以来の人生の師匠だ。

コンサートの後に楽屋を訪ねて「元気にしていますか?」と尋ねられた時に

恥ずかしくない自分でいたい。

今回も、そしてまた次も、一里塚みたいに。

だから私は、人生のいちばん大切な時期にずっと走り続けることができた。


古希を過ぎてからも、コンサートの予定はビッシリ。

しかも、毎回新たなチャレンジをしかけ、

「自己ベスト」を見事に更新される。

私たちにとって「元気な先生」は、当たり前の存在だった。

でも今回、気づいた。

この長い長い間、いつ再開されるかもわからない状況の中で

心と身体をベストな状態に保ち続けて

先生ご自身も押しつぶされそうな不安と戦いながら

本番では多くの人の心を覆う閉塞感を吹き飛ばした。

80歳。これは、当たり前などではなく、人としてほとんど奇跡だ。

私の仕事は、決して今までのように順調ではない。

これからどうしよう、と迷いも悩みもてんこ盛りだ。

また先生の音楽が「それでも進め」と背中を押してくれた。

夜、奥様にお礼のメッセージを送ったら

「真正面にいてくれて、勇気づけられて、

やっと本当にコンサートなんだ、と実感しました」と

先生からのメッセージを届けてくださった。

やだ! また涙が止まらない…

ほんの少しは、恩返しをすることができたんだろうか。