働くシニアをあたたかく見守りたい
夜中の3時。
「ママに家を追い出されたの」と
児童相談所を訪れた小学6年生の女子を
宿直の60代の男性スタッフが門前払いにしたニュース。
さてこれを見て、皆さんはどう思われましたか?
ニュースキャスターのコメントは厳しいものでした。
「これだけ児童虐待が問題になっているのに
あり得ないズサンな対応ですね」と。
ネットでは、もっと大変なことに!
「あきれ果てる。マジ、信じられない」
「職員として、ていうより人として、最っ低」
「この会社、反社勢力じゃない?」
「大した仕事じゃないとバカにして、酒でも飲んでたんだ」
「年寄りだから仮眠が必要、邪魔するなってこと?」
批判の嵐に次々と同調コメントが続き、
対応した職員の名前、顔を確定しようと走り回る人も…
確かに大きな問題でした。
無事に警察に保護されて本当に良かったけれど
途中で何かあったら…
でも、この職員、そんなにひどい人なのかな…
長い間、たくさんのシニアに接してきた私には、
少し違うストーリーが浮かぶのです。
もちろん、新聞記事以外のことは知りませんから、
全部私の勝手な創作であることをお断りしておきますm(_ _)m
地元の企業を40年勤め上げ、課長で定年退職。
まだ元気だから、友人に勧められて
地元のボランティア団体に登録してみた。
技術屋で人と接する仕事は初めてだが
夜だけだし滅多に何もないから、と言われて
週2回、児相の受付を引き受けた。
妻がしっかり家庭を守ってくれて、娘や息子は
まあ普通に育って結婚もしたから
昨今の「児童虐待」というのが、正直ピンとこないが…
何もしないでブラブラしていると
自分が忘れ去られるみたいな焦りがあった。
「仕事をしている」という緊張感は欲しいが
昔みたいにバリバリやるのは無理。
孫と遊ぶ時間も大事だと思っている。
さて、ある夜。
夜中の3時にインタホンが鳴った。
モニターを覗くと、暗くて見えにくいが
ホラー映画のようで、一瞬ギクっと背筋が凍る。
「ママに…」と言っている。
こんな時は、そうだ、保護して報告するんだな。
いや、待てよ。
日ごろから「オレオレ詐欺には気をつけましょう」と
しつこく言われている。
まず疑った方がいいかもしれない。
コンビニの前で座り込んでたむろしてるような高校生か?
のこのこ出て行って、何人もいて襲われたら大変だ。
なにしろ老人ひとり、とてもかなうわけがない…
そうそう、明日は孫の誕生パーティーなんだから。
そうだ、警察だ。
本当に困っているなら、警察に行ったら助けてくれるだろう。
悪ガキだったら、これで退散。
いかがですか?
それほど責任感もやる気もないけれど
どこにでもいる、真面目で小心で、
家族を愛する、ある意味善良なおじさん。
何も確信的な悪だくみをしたわけではなく
普通に仕事をしていたつもりが
ちょっとビビッた判断で
いつのまにか大変なことになって
青ざめてガタガタ震えているんじゃないかな…
そんなに大事な仕事だと皆が認めるなら
夜も資格と権限を持った正職員が対応すればいい。
せめて2人配置されていれば
襲撃にも備えつつ迎え入れようと思ったかもしれない。
コストダウンと過大な期待の中で
シニアが容赦なくダメ出しを食らって退場していく…
果たして、折れた心を立て直して「誰かのために」と
また元気に動き出すことができるでしょうか。
70歳を超えて、体力も判断力も衰えゆく人々が
それでも働き続けなければならない時代になったのに
この社会のあり方は、人々の意識は
このままでいいのでしょうか。
この事相の職員に「あなたは悪くない」とは言えません。
でも「あなたの行動はわからなくもないよ」
「大きなミスをしたけれど、またがんばってほしい」と
励ますことはできます。
シニアの仕事に関わる者として
私はいつもその視点を持ち、
そして発信していきたいと思っています。